正しいリストラ
今日は、リストラについて少し話したいと思います。言うまでもなくリストラとは「リストラクチャリング(Restructuring)=事業の再構築」が本来の意味で、人員整理(=首切り)ではないことを強調したいのが今回の趣旨です。
ある和菓子の老舗についての事例です。過去に一度負債を抱えてしまい、再建に大変な努力をされたと聞いています。その老舗が今、IT武装しようとしています。Webサイトをリニューアルしオンラインショッピングを充実させたところ、オンラインショッピングの売上が前年同月比10倍以上になりました。どうしても古い配送システムでは対応が難しくなってきます。古くなった売上管理システムを、工場と結び在庫管理や発送管理とも連動させたい考えを持っています。その背景には、販売店を拡充したいという思いがあります。販売店には人手が必要です。老舗には老舗の接客というものがありますからできれば古くから働いていてくれて内部の文化によくなじんでいる人間にまかせたい。そのためには内部の人手を省力化する必要がある。3人必要な部門を1人でこなせるようにして2人を店に出したい。だから、IT化で省力化できないか、というわけです。
この考えを聞いたとき、「これが本当のリストラだな」と強く感じました。売上の向上と店舗拡充が一致し、内部の文化を大切にし、省力化の目的にも無理がない。人手を減らしたい理由に無理がないのです。人員の整理には大変なリスクがあります。強引な整理を体験した人は2度とそこの商品を購入しようと思わなくなります。周辺の人も「そんな所の商品は欲しくない」と思います。1人の整理は下手をするとその人の賃金に匹敵する売上減をまねく可能性があります。企業の商品はそこに従事する人(+周辺の人)が消費する面もかなりありますから、イメージダウンが及ぼすダメージまで考慮しないと本来人員整理に手をつけるべきではないのです。目の前の資金難に対しそのような考えは確かに持ちにくいと思いますが。
この老舗の経営者には、本当に心から協力したいと思います。我々の協力が必ずよい方向に向かうと確信できるからです。経営者の方々がITのことをより知っていたほうがどんどん進化する顧客の欲望に対し有効であることは事実ですが、それよりもまず「どこに手をつける(改善ポイントはどこか)のが最も有効か」「手をつけてはいけない部分はどこか」を経営者の方が把握している、ということが我々の心を刺激します。
想像ですが、この老舗も一度は人員整理を経験したのだと思います。その苦い教訓を今に生かし、負債を完済し、また攻勢に出ようとしています。一見ITにはまったく縁のなさそうな老舗の和菓子メーカー、そこにもIT化によって躍進のチャンスがあることにうれしさと、同業の方々に知っていただきたく今回のコラムを書きました。