知らずにすんでいたことを知ってしまうこと

少し前になりましたが養鶏業者のご夫婦が鳥インフルエンザの件で自害されました。責任云々の話は今回の趣旨とは違うので、ここでのコメントは避けようと思います。ただ、「痛ましいな」と。

実際、外部の第3者からの通報がなかったなら、事態はどうなっていたのでしょうか。今は、原因を追究できますが、100年前なら原因もわからずただただ鶏がバタバタと死んでいく状態だったことでしょう。そして、その鶏も「もったいない」とか言って食べていたに違いありません。実際火を通せば問題ないということですから、それを食べた人には被害はないでしょう。

今後、さらに管理は徹底されRFID(ICタグ)などの技術によってトレーサビリティが向上し、「この鶏は、何年何月何日にどこの養鶏場から出荷され、温度管理はどうで、現在はいくらで店頭にならんでいます」なんて情報が瞬時にわかるようになるのでしょう。その横に「全然情報がありません」という鶏があったら果たしてお客さんはどっちの鶏を買うのでしょうか?もしかしたら情報のないほうが味はいいかもしれないってことはないですかね(味も保証されていくのですかね)。

食の安全がこれほど騒がれる背景には、「いったいなにを食わされているのかわからない」不安があるのでしょう。そして今はそれを調べればわかってしまう時代です。もう少したつとわざわざ調べなくても最初からわかっているようになるのでしょう。少しでも安価に提供できるように工夫してきたことも、それが業界の常識であったとしても一般のお客さんに知れたら一気に不買運動に発展しかねないことがきっとまだまだあるのでしょう。そしてそれがきっかけで、今までのようなコストでは提供できない商品もできるかもしれません。

サプライヤー(供給者)の皆さんには、大変な時代になったと思います。お客さんはどんどん商品の中身を知ってしまいます。コスト競争に加えて、情報公開が今後の鍵です。ライバルに比べていかに多くの情報を公開できるか、これが購買判断の目安になるということです。「当店は隠すことはなにもございません」と最初に胸を張って情報公開するところが利益を得ることでしょう。

購買側にしてみると、今まで知らなかったことも知ったうえで判断しなくてはなりません。これはこれで大変で、今までの判断基準に加えて情報の内容も吟味しなくてはなりません。まったく難儀な時代です。

どうも情報化というのはコストダウンや売上アップのためにあるだけではなく、「今まで知らなかったこと、知らずに済んでいたことを否応なしに知ってしまうこと」でもあるようです。隠すとためにならないことはサプライヤーの皆さん骨身にしみているはずですから、包み隠さず公開するしかないのですが、同時に購買側にも判断を迫ることになるわけで、世の中にとっていいことなんでしょうけど、素直に喜べないちょっと困った時代になりました。本来ならRFID(ICタグ)等をどんどん薦めるような話題にしたかったのですが、「隠すとためにならんなあ」という感想からこんなコラムになってしまいました。