知らないことの強み

先日ある人とお話しました。織田が悩むとよく相談する人です。その人が「老舗の旅館の女将さんが、街中のビジネスホテル(仮にAグループとしておきましょう)が増えたから客が減った」って言うのだけれど、どう思う?と聞いてきました。その人には答えがわかっている問題です。ちょっと考えてから織田は「違うと思う」と答えました。老舗の旅館の客層とビジネスホテルの客層が同じとは思えなかったからです。方や週末の家族やグループ旅行、方や平日の出張、とても同じには思えません。

でも、どうやらその女将さんは売上(お客)の減少はAグループのせいだと思い込んでいるようなのです。老舗の旅館としても有名で、長い間業界で活躍されている女将なのにです。なぜなのでしょうか。

これには2つのポイントがあります。売上の減少という現実、ひたひたと忍び寄る暗い影とでもいうのでしょうか、がこうまで人間の目を曇らせるものなのかというのが一つ。そしてもう一つは、旅館業を知らなくても「なぜなの?」という指摘は可能、ということです。

最初のポイントである「売上の減少」という現実のプレッシャーは想像を絶するものがあります。うまく会社が運営できている時は、金策に走ることもありませんからなにをするにも余裕を持って対処できます。ところが一旦資金繰りが苦しくなると、まずは金策、次に金策、三四がなくて五に金策、という状況になってしまい「なぜなの?」という根本に目を向ける余裕がなくなってしまいます。恐らく(想像ですが)世の中のすばらしい経営者と言われる方々は、どんな状況でも「なぜなの?」という根本に向き合える人です。でなければ、創業者の一族がやっていた不採算部門をきっぱりと閉鎖したり、選択と集中の原則に従ったリストラなどできるはずがありません。

次のポイントである 旅館業を知らなくても「なぜなの?」という指摘は可能、というのは旅館業でなくとも同様の経験をされた人も多いのではないでしょうか。その業界を(その企業を)知らないがゆえに、素直に「なぜなの?」と思える。昔からこうでした、に対して「なぜなの?」と思える。そんな思いが企業の改善にずいぶん役立っているはずです。内部にいると、長くいるとそれが正しいのかどうかわからなくなるのです。

上記の2つのポイントは実は同じことを言っています。「本質を見極めなさい」と。企業のトップにおられる方は、ご自分の企業の本来あるべき姿=本質を見極めなくてはなりませんし、外部スタッフである我々は外部スタッフゆえの素直さを持って本質を見極めなくてはなりません。そして企業のトップの方々と思いを同じにする必要があります。

企業のトップにおられる方は非常に孤独です。ご自分の決断が企業の運命を決めているのです。ですから誰かに相談することはある意味当然です。税理士、公認会計士、弁護士などもそのよき相談相手なのでしょう。同様に企業を経営されている知人もよき相談相手です。そして、企業の経営にITが深く浸透している現在では我々のようなIT系の専門知識を持ったものも相談相手なのかもしれません。そうだとしたら、深くその企業を知るにしても、最初の「なぜなの?」を、本質を忘れないでいきたいものです。